極秘調査報告書
当研究所ではこのたび元老院よりを密命を受けて地球(この星を支配するヒトという種による呼び方であり、以下この名称を用いるものとする)という星について調査を進めた。その結果、今後この星を我らの仲間に迎える上で気になる点が確認されたので報告する。それはこの星で行われる祭りについてである。
この地球には数多くの祭りが存在する。そのほとんどはヒトによるものであり、さらに多くが宗教と関わりを持つことが大きな特徴である。豊作を願うものからこの先の運命を占うものまで、その多くはシャーマンと呼ばれる呪術師によって執りおこなわれている。さらに、祭りがその本来の意味を失い、形だけが残っているものもある。これは全体から言えば数は少ないが、文明が発達した地域ほどこの傾向が強く見られる。極端なものでは、祭りが観光資源になっているものすらある。この段階ではもはやもともとその祭りにどのような意味が込められていたのか推測することすら難しい。
ここまでは地球に限らず、ある程度発達した星ならばかなりの確率で起こりうることである。しかし地球の祭りの最も特異な点は、ある種の祭りにおいては、ヒト同士の殺し合いが行われるということである。我々も初めは信じることができず、長期にわたって調査を続けたが、その結果、祭りとしか考えられないという結論に至った。その理由として次の二つのことが挙げられる。
第一にその規模が非常に大きいということである。ときにそれはヒト自身を存亡の危機に追い込むほどのものになる。このようなことは生物の本能として有り得ないことであり、祭りにおける宗教的な意味があると考えざるをえない。
第二に、これがある一定の時間間隔をおいて昔から続けられているということである。一度だけならば特殊な伝染病によって正常な思考を失ったためと考えることも可能であるが、ヒトという種族が誕生してから現在まで絶えることなく続いている。このことから、この殺し合いが一種の習慣になっていると考えられる。今までの例に従えば近いうちに再び大規模な殺し合いが行われる可能性が高い。
以上の二つがヒト同士の殺し合いを祭りととらえるべきと考える最大の理由である。さらにこの殺し合いが行われるたびに科学技術が大きく進歩し結果的に生活水準が向上しているという事実を考えると、これは文明の発達を願う祭りと考えるのが妥当であろう。
このような祭りの習慣を持つ種族はいくつかの星に存在したが、すべて自滅という結末を迎えている。このヒトという種族も遠からずして滅ぶであろう。地球を宇宙連邦に迎えるのは時期尚早であり、そのような習慣を持たない種族が地球を支配するまで待つべきであるというのが当研究所の結論である。
宇宙連邦辺境研究所